オラファー・エリアソン〜ときに川は橋となる 感想

東京都現代美術館で開催されていた「オラファー・エリアソン ときに川は橋となる」(会期2020年6月9日〜9月27日)に行った時の感想を書いておこうと思います。

しばらくこんな感じで以前行った美術館や展覧会の話を持ってきそう…笑

コロナウイルス感染拡大の中で開催された展示でしたね。元々3月〜6月に開催が予定されていましたが、感染拡大の影響を受け開催が後ろ倒しになっていました。

無事に開催され何よりでした。

〜読み飛ばして大丈夫な前置き(コロナ禍で入場が大変だった話)〜

開催されてからずっと行かないと〜と思っていたのですが、ぐたぐたしている間にも時は流れ…。私が訪れたのは会期終了の1週間前。

インスタ映えする作品が多い本展示は大人気だったようで、終了間近の美術館はとっても混んでいました。

しかもこの時東京都現代美術館はチケットの事前予約を受け付けておらず…チケットを買うために地下にあるホールまで使い1時間近く並んだあげく、展覧会に入場するのにも1時間程並びました。びっくり〜(笑)

(2021年1月に石岡瑛子展で訪れた際にはネットで事前に時間帯別の入場券が予約購入できるようになっており、この状況は改善されていました。よかったよかった。)

オラファー・エリアソンとは

オラファー・エリアソン(1976年)はアイルランド系のデンマーク人アーティストです。近年では環境問題などをテーマにした、芸術作品を通じて人の心にメッセージを伝えるような作品を数々手がけています。

オラファーは、「スタジオ・オラファー・エリアソン」という工房を持っており、1人で作品を制作するのではなく、このスタジオで様々なプロフェッショナルと共に作品作りをしています。

このスタジオには建築家、科学者、研究者、料理人など様々なエキスパートが集まっていて、100人以上の人々で構成されています。この様々な分野の専門家たちがコラボレーションを通して制作する作品やプロジェクトは、時に芸術を超え科学実験を見ているような印象を受けます。

今回の展示

今回の展示では、近年のオラファーが力を入れている“サステイナビリティ”に焦点を当てた作品が集められていました。サステイナブルは最近耳にする機会の多くなった単語ですが、ここでは簡単にいうと環境や環境問題に配慮した作品、となります。

本展示ではソーラーパワーを利用して光を放つインスタレーションや、作品運送の際、どのようにエネルギー消費を抑えたのかという解説が展示されていました。

近年、ヨーロッパではスウェーデンから始まった「反フライト」運動が広まっています。飛行機って物凄い燃料消費をするので環境にはよろしくない。そのため旅人の間で広まっていった「飛行機の利用をボイコットしよう」というのがこの反フライト運動です。

オラファーはこの運動に賛同する形で、今回の展示作品を空輸ではなく、よりエネルギー消費を抑えられる海運により行いました。

更に、その海運中の船の揺れを利用して新たな作品を作っちゃったりしています。さすがアーティストです。

高尚なものとして扱われる傾向にあるアート作品に環境問題を組み入れてくるのは、とても面白い取り組みですよね。日本と比べ、環境問題に対してより深刻に取り組んでいる人の多いヨーロッパのアーティストだからこその取り組みなのかもしれません。

今回の展示作品

ここからは本展覧会で展示されていた作品を紹介していきます。

氷河

氷河

会場に入ると迎えてくれるのは、壁に貼られた大きな紙に、淡い色の模様が浮かび上がっている作品です。この作品は氷河を紙の上に置き、氷が溶けていく過程で絵の具を垂らしていくこで出来上がった作品だそう。
地球温暖化の影響により、氷河は溶け、海面水位の上昇は続きます。オラファーの作品には、この溶けゆく氷河をテーマにしたものがいくつも見られます。

イギリスの現代美術館、テートモダンでは2018年、溶け出した氷河の大きな断片を海から運び込み、美術館の前に置き、溶けていく様子を人々に目撃させるというインスタレーション、《アイス・ウォッチ》が行われました。

また、彼がアイスランドの自然を20年間に渡り観察し、写真に記録を収めてきたシリーズ、「溶ける氷河のシリーズ1999/2019」(2019)は、膨大な量の写真により、この20年間でどれほど自然が変化してきたかを目で見ることができます。

《溶ける氷河のシリーズ1999/2019》(2019)

このシリーズ、けっこう衝撃的でした。知識としては認識しているはずの地球温暖化と、失われていく地球の氷河。その事実を私たちの目で捉え認識できるように、溶けゆく氷河の写真が並びます。元々大きく地表を覆っていた氷河が、年月と共に明らかに面積を狭めていく様子は、地球の自然って、こんなに目で見て分かる形で変化をしてしまっているのだという現実を突きつけてきます。

オラファーは、久しぶりに訪れたある場所に、あるべき氷河がない事に気がつきこのシリーズの制作を始めました。日曜美術館で放送されていたオラファーの特集の中で、「こんなに自然が変わってしまうのなら、もっと頻繁にこの場所を訪れ詳細な記録を取るべきだった」と、無くなった氷河を見つめ哀しそうに語るオラファーの姿は印象的でした。

光のインスタレーション

《太陽の中心への探査》(2017年)

これ、とーーっても綺麗なインスタレーションです。

部屋の中心に設置された多角形のオブジェクトから色とりどりの光が発生し、部屋の隅々にまで鮮やかな光を送っています。

この物体はトゲトゲとした面白い形をしているのですが、この綺麗な輝きを実現するため、スタジオで綿密に計算しつくした上で設計されているのだそうです。

またこの光は、美術館の屋上に設置された太陽光パネルから給電されています。ここでも彼のテーマであるサステイナビリティが組み込まれていました。

《人間を超えたレゾネーター》(2017年)

壁に青を基調としたくつかの輪が描かれた作品があります。これは照らされた光が壁に映し出す作品で、光の輪は何重にもなり、中心の濃い部分を起点として、淡い色の光の輪もぼんやりと部屋の隅の方まで広がっています。

正面から見ると、どういう仕組みなのか不思議に思う作品ですが、横から見ると光の前に金属の輪っかがあり、その輪の上部から手前に伸びた金具の先に小さなLEDライトが付いているのが分かります。

これは暗い海を遠くまで照らす灯台の仕組みを利用した作品だそうです。

大きな部屋の中にこの作品から灯る光のみが暗く、明るく映っていて、静かで凪いだ暗い海に吸い込まれていくように感じました。 

水のインスタレーション

《ビューティー》(1993年)


オラファー・エリアソン初期の作品です。暗い部屋の中、照らされる部屋の一点。その空間に虹が浮かんでいます。このビューティーは、空間に霧を噴出し、そこに光を当てることで人工的に虹を生み出した作品です。

手を伸ばすと、すぐそこの虹に触れられそうで、でも伸ばした腕はやはり虹を掴むことができず、腕は虹を通り抜けます。

揺れ動く虹を眺めていると霧が噴出する音すら心地良く感じてきて、ぼーっと眺め続けてしまいます。今回の展示の中で、手放しで綺麗だなーと、ずっと見ていたくなる作品でした。

 《ときに川は橋となる》(2020年)

本展示のタイトルにもなっている、本展示で初公開されたインスタレーション作品です。

例えば海で、川で、自然の中の水の動きってとても面白くて、見ていると吸い込まれるように見入ってしまうことってありませんか?私はそういう景色をぼーっと眺めるのが好きです(笑)

この作品はそんな自然の中の水の動きを人工的に、計算の上に、でもどこか不規則に生み出しています。

おわりに

スタジオを構え、多くの人と共に作品制作をするスタイルからも分かるように、オラファーの制作物は、個人で制作できるものの粋を超えたプロジェクトのように思えます。その種類もクオリティも、企業が作る中〜大規模の制作物のようです。

こういった面を見ると、オラファーって現代のレオナルド・ダ・ヴィンチのようですよね。ダ・ヴィンチもまた工房を持ち、人を従えて様々な分野の作品制作をしていました。この時代の芸術家は、芸術家である前に職人で、だからこそ科学などの分野でも功績を残してきました。

オラファーもまた、現代社会に生きるアートの職人のようです。

オラファーのスタジオがこれからどんな作品を制作していくのか、どんなテーマをアートを介して私たちに届けてくれるのか。これからも楽しみです。